次の瞬間、ロミは女の元に詰め寄っていた。金色の足で、蹴り殺さんばかりに。彼女を至近距離から睨みつけていた。 金色の瞳で、焼き殺さんばかりに。

「ここが故郷? そんなの嘘だ! 私は覚えてる! あなたはムジカの隣で、村の皆が喰い殺されるのを、黙って見てた!」

衝動のままに手が動いてしまいそうになるのを、爪が掌に食い込むほどきつく握り、辛うじて堪える。 喉を焼き切って怒りが流れ出てくるのを、必死に押し留めようとする。

 砂混じりの風一枚隔てた中で、やはり表情を変えず、女は黙っていた。その雰囲気が漂わせる虚無感は、どことなく、 レインの瞳を思わせた。どれだけ強い感情をぶつけても、手応え無く飲み込まれていく感触。
 ただ、レインと違い、彼女の虚無感は、ぶつけた瞬間に寂しい反響音がする。その音が、ぶつけた人間の感情を、さらに苛立たせる。

 一言も語らず、奇妙に寂しい反響音だけを響かせ、女は井戸の前から動こうとしない。

 その姿に、とうとうロミは爆発した。

「本当に村の人だったなら、どうして止めてくれなかったの!」

 一際強い風が吹き、彼女の頭から、薄い更紗模様のスカーフをさらっていく。

「どうして何も言わずにいられたの? ただ黙って見ていられたのよ?」

 真っ赤な髪を振り乱し、ロミは拳を、女に向かって振り上げた。しかし、振り下ろすことなかった。そのままロミは、泣き崩れた。

 初めて女の顔が僅かに強張ったが、ロミがそれを見ることはなかった。

 ただ、泣き続けた。家族が殺されたときと同じくらい大きな声で、憎しみを風に乗せ、世界の果てにまで溢れるほどの涙で。

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