「理由がなければ、呼んではいけないの」 「そんなことはないけれど……」 「それなら何故、そんなことを聞くの。理由も無しに私の顔を見たくない、と言うことなの?」 彼女らしくもない応酬に、ミトは苦笑する。 「君が、合理的な理由も無しに、僕たちを呼び出すわけがない」 「そうね」 拗ねるような言葉とは裏腹に、彼女の表情は、夜を見つめる母親のように冷え切っている。 「それは人間のすること。会いたいから、顔が見たいからと言うだけで、何の用事もない他人の元へ走る。私たち人喰鬼は、 そんなことはしない。種を存続させる以上の愛情を、持たないから」 ミトの口許から、微笑みの一片が消えた。 女王の、暗い紫の瞳が、ぬば玉のように光った。 「あなたも同じよ」 ミトは返事をしない。 薄く笑んだまま、彼の美しい母親、永遠の花嫁の唇から、白い歯が可憐に見え隠れするのを、ただ黙って見ている。 「あなたがこの世で愛する相手は、自分の子供を産む者だけだわ。私にしろ、イオキにしろ」 -------------------------------------------------- |