「哀れな人喰鬼」

 と、耳の奥に舌を這わすような声で、女王は囁いた。

「若い時分に人間たちに捕らえられ、脳を狂わされた人喰鬼。人間の為に、人間のように生きろ、と洗脳された人喰鬼。 そして洗脳に命じられるまま、当時のワルハラ領主を殺して代わり、人間の為の為政を尽くしてきた人喰鬼。
 兄弟たちは、あなたを殺すべきかと話し合った。でも結局は、期待と哀れみが勝った。 人間に都合の良い理性の箍を嵌められたと同時に、あなたの人喰鬼としての本能は確かに生きていて、 あなたはその双方に誠心を捧げたいと苦しみ続けたから」


 不意に、ミトの頭に、激痛が走った。



 ――お前は、これまでのグールのようであってはならない。人間を思いやった、人間の為の政治を行わなければならない。 この世界の主は人間であると自覚し、彼らに認められるべく、尽力するのだ。



 意識を呑み込む閃光と痛みと共に、彼の脳味噌に刻まれていくのは、呪わしき文言だ。彼を覗き込む、三人の博士たちが呟く言葉だ。
 世界最高峰の頭脳と称され、グール洗脳研究の指揮を執ったゼットウ博士。機械工学専門で、洗脳装置を開発したイワンヤ博士。 そしてまだ十六歳の若さながら、独自の暗号で彼らの研究を記録したネリダ博士。

 彼らに見下ろされ、洗脳装置の中で、青い瞳の人喰鬼が叫ぶ。コンがノキヤの鞭に打ち倒れた時よりも若く、 まだワルハラ領主にもなっていない、十五歳のミトが。

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