どうやって彼らの手下に―― 『東方三賢人』に―― 捕まったのかは、覚えていない。コンのように、 思わぬ奇襲を受けたのかも知れない。当時のミトは、彼以上に世間知らずで野放図であった。 何故捕まったか考える余裕もなく、気がつけば、屈辱と混乱と恐怖で、猛り狂うしかなかった。

 開発途中で打ち捨てられた禿山か、廃墟となった採掘場のような場所が、実験場だった。中心に、湖ほども広く、 地底に届かんばかりに深い、巨大な円形の水槽があった。水槽の壁には縦横無尽に機械の管が張り巡らされていて、 畔の、水槽に比べると玩具のように小さな洗脳装置に繋がっていた。

 目覚めたとき、ミトは水中にいた。驚くと同時に、反射的に水中から飛び出そうとした途端、 水中に電気が走った。鯨も即死する、強大な電気が。

 水槽の中で、ミトは大きく口を開けた。四肢は痙攣し、肺は水没した。
 それでも無我夢中で体を動かし、水面へ顔を出した瞬間、何十発という銃弾が顔面に降り注いだ。

『おい、頭は極力狙うな。いくらでも再生するとは言え、洗脳作業に支障を来す可能性がある』

 三博士の誰かがそう言うのが、聞こえた。

 酸素不足による活動限界が訪れるまで、ミトは足掻いた。生まれて初めて感じる死への恐怖に、嬲られるまま。 両手両足を吹き飛ばされ、首が体から離れ、半日後、とうとう心臓が止まるまで。

 仮死状態となったミトは、彼が道連れにした数十人の人間の死体と共に、そのまま一週間、水中を漂った。
 そして再び目覚めたとき、彼はもう、無邪気に人間を喰らう若い獣ではなくなっていた。

--------------------------------------------------
[1333]



/ / top
inserted by FC2 system