生きる希望を失った人間の絶望を、さらに深くするような、景色だ。
 しかし同時に、懐かしい風景でもある。

「僕たち、何処へ行くの?」

 イオキが身を捩るようにしてタキオへ顔を近づけ、小さな声で尋ねるのが聞こえる。

「このバス、エイゴンとの国境付近に向かっているよね」

 タキオは、低い声で答えた。

「この先に、ロミの生まれた村がある」

 イオキとレインが、同時に、こちらを見た。

「もう誰も住んでいないが、墓参りくらい、していくべきだろう。列車の中でロミと話して、そう決めたんだ」

 ロミは冷たい窓ガラスに額を当てたまま、心の中で反論した。

 彼女が、行きたいと言ったわけではない。列車の中で言い出したのは、タキオだ。

 彼女自身は、墓参りなど、したくない。
 惨劇の跡地に行けば、家族を喰い殺される光景を、思い出すだけだ。荒廃した村を見れば、幸福な時間が二度と戻らないことを、 思い知らされるだけだ。

 そう思うだけで、頬が熱くなる。金色の瞳が揺らぐ。泣きそうになって、冷静に気持ちを説明出来なくなる。

 だから黙って目を背けていたら、「行くべきだ」とタキオは繰り返した。恐らくは彼女の気持ちを承知の上で、 それでも珍しく、頑固に。

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