全く、キリエを身辺につけたのも、男の子の服を着せたのも、一緒に寝たいとぐずるイオキを宥めてきたのも、 全て、この事実を覆い隠す為だったと言うのに。

 人間の父子のような、清潔な愛情が育めるはずだと、必死に己に言い聞かせてきたのに。
 グール特有の生殖本能を抑え、食人の事実を教えず、森の奥に遊ばせておけば、幸福な時間を延命できると思っていたのに。

 虚構の緞帳を押し広げたところで、そこにあるのは、無様で滑稽、惨め極まりない姿ではないか。 僕も、あなたも。

 とうに朽ち果てた花嫁のベール、醜く老いた母親の顔、瓦解した女王の玉座。


 そんな物、僕も見たくなかった。


 音もなく、女王が―― 女王だった女が、動いた。目を閉じたミトの唇に、彼女の唇が近づいた。

 しかし、二つが触れ合う寸前、ミトは顔を背けた。

 目を開けると、重たい桃色の髪で顔を隠し、時が止まったように動かない、女がいた。

「用事は、これだけ?」

 ミトは囁いた。女は返事をしなかった。

 ミトはゆっくりと立ち上がると、踵を返した。

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