それはきっと、彼が知っていたからだ。悪夢に怯えつつもそこに相反して存在する、怖いもの見たさとでも言うべき、破滅願望。 そして何より強い望郷の念が、樹木の根のように、ロミの心に張り巡らされているのを。

 だからこそ、ロミも最後は、渋々頷いた。

 そしてその瞬間から、不安と緊張で、胸は高鳴り続けている。 そんな心中を察するべくもないレインやイオキに、理不尽な苛立ちを覚え、タキオにも怒りをぶつけている。 けれど本当は、感謝しているのだ。平静を装いたいが、上手くできないのだ。

 自分でも気持ちが上手く言い表せないから、こうして不機嫌な顔をして黙っているしかない。歯痒い。情けない。

 そんなロミの思いを抱え、バスは一路、国境付近の村へ向かった。

「……変だわ」

 とやがて、ロミは呟いた。

 車窓の外の景色は、丘の稜線、枯れた川の跡など、次第に見覚えのあるものに変わってきた。しかし、どこか妙である。

 荒野であることには変わりないのだが、色鮮やかな看板がぽつりぽつりと立っていることに、違和感がある。 てっきり最後には自分たちだけになるだろうと思っていた車内にも、まだまだ人が残っている。もはや何も無い場所であるはずなのに。

 しかしそう考えると、そもそも、何故そんな場所までバスが走っているのだろう?

 緊張と不安が最高潮に高まり、腰が浮きそうになった瞬間、バスの運転手が、終点を告げた。

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