と、不意に、大きなシーツのような物が、レインの頭に覆いかぶさった。驚いたレインは、無暗に手を振り回した。

「ああっ、すまない」

 すぐに声がして、シーツが頭上から取り除かれる。

 見上げると、シーツのように思えたのは、鮮やかな黄色の凧だった。凧を手に立っているのは、端正な顔立ちの青年だ。 長めの茶髪に赤いピアスをつけ、着ている物は革のジャケットにエンジニアブーツ、首にはブランド物のスカーフを巻いている。 周囲から一際垢抜けたその姿は、いかにもこの土地の人間ではない。

 どこかで見た顔だ、とレインは思った。

「はぐれたのかい?」

 近くに大人がいないのを見て、青年は尋ねる。レインは首を振る。
 青年はふむ、と呟くと、明らかに意気消沈している子供二人を眺めた。そして、白い歯を覗かせた。

「あげよう」

 黄色い凧が、目の前に差し出される。
 イオキが、戸惑って青年を見上げる。

「悲劇は、これで終わりじゃない。ますます加速し、崩壊に向かって膨らんでいくばかりだからね」

 そう言いながら、青年はイオキの手に凧を握らせる。

 ふと、その端正な顔に、憂いの影が過ぎった。

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