「君たちを見ていると、こちらまで、辛くなってくる。本気で助けたいと思えば出来ることはあるのに、 その選択をしない自分が、嫌になる。精々こうやって、ほんの僅かでも楽しい思い出が残せるよう、祈るばかりだ」

 黙って相手を見つめる二人に、青年は微笑んだ。

 謎めいた言葉と凧を残し、青年は去っていった。

 凧をもらっても、揚げ方が分からず、揚げる気も起きない。凧を手にしたまま、二人はやはり無言で、その場から動かなかった。

 やがて、日が落ちてきた。銀色の結晶だった太陽が、黄金色の球へと形を変え、空は蒼から桃色、そして象牙色になっていく。 子供たちは凧を畳み、両親に手を引かれ、帰りのバスに乗っていく。ある子はまだまだ元気いっぱいに飛び跳ね、 ある子は遊び疲れ眠そうな顔で。丘は、次第に閑散としていき、風の音が強くなっていく。

 頬杖をつき、その様子を眺めているレインの上に、黒い影が落ちた。

「おい、その凧どうしたんだ」

 目を細めながらゆっくり顔を上げると、夕日を背に、黒い影になったタキオが立っている。

 その後ろに、ロミがいた。泣き腫らした顔を伏せ、バツが悪そうに横を向いて。

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