すると、それまで木の下に座って黙っていたロミが、やおら立ち上がった。

「もう、二人とも。それじゃ駄目だよ」

 そう言って、糸巻の糸を巻き直し、戸惑っているイオキの手にしっかり握らせる。

「凧に引っ張られちゃ駄目。お腹に力を入れて、しっかり踏ん張って。糸も無暗に長くしちゃ駄目。魚釣りのように、 様子を見ながら調整して。いい? 今から揚げるからね」

イオキが頷くのを見ると、レインの元に走ってくる。

「風を読んで走らなきゃ。ほら、行くよ」

 ロミは、片手で凧を、片手でレインの右手を握った。レインの右手に、彼女の温もりが、伝わった。 切り揃えた赤い前髪が、額の上で、ふわりと揺れた。

 そのまま二人で凧を掲げ、走り出した。

 金色の足が、夕日に光る。使鎧の両足が生み出す速さは、まるで、地表を飛んでいるようだ。 ロミに引っ張られ、レインの足が、宙に浮く。雲の上を走っているような、不思議な感覚に包まれる。 彼女の息遣いが、すぐ耳元で聞こえる。

「ほら、今! 離して!」

 ロミの掛け声と共に、レインは凧を、手から離した。

 手を繋いだまま振り仰ぐ二人の上空で、黄色の凧が、鮮やかに夕焼け空を舞った。

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