簡単にシャワーを浴び、少しばかりビスケットを食べると、ロミはすぐに寝てしまった。 きっと、レインたちの見ていないところで沢山泣いて、疲れたのだろう。
 レインとイオキも、狭いパイプ製の二段ベッドに潜り込んだ。イオキは、黄色い凧をしっかり抱えて。 タキオは、事務所のソファで眠ることになった。

 電気が消され、レインは暗闇の中、目を閉じた。すぐに眠りがやってきた。
 しかし、それから数時間もしない内に、目が開いてしまった。

 ずっと夢を見ていたような、まるで眠っていなかったような、妙な目覚めだ。壁時計が秒針を刻む音がする。 たぶん、午前一時くらいだろう。レインはしばらく目を開けたまま、毛布の下で、じっとしていた。 が、やがて体を起こし、そっとベッドの下段を覗き込んだ。

 黄色い凧だけ残し、イオキがいなくなっていた。

 レインは向かいのベッドに寝ているロミを起こさないよう、静かに二段ベッドから降りた。 床は冷たいが、我慢出来ない程ではない。そのまま部屋を出ると、タキオが寝ている事務所の前を忍び足で通り過ぎ、 小さな赤いランプが灯った非常口から、裸足のまま外へ出た。

 昼間の強い風はすっかり止み、外は満天の星空だ。
 しかし、レインの目に真っ先に飛び込んできたのは、夜空ではなく、オリーブ畑で光る、緑色の瞳だった。

 バリバリと骨を砕き、肉を裂く、恐ろしい音がする。濃い血の匂いもする。

 辺りは暗いが、普通の人間より夜目が利くレインには、よく見える。

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