停車と同時に、窮屈な車内から解放された人々は、我先にとバスを降りていった。たちまち空になった車内に、ロミは身じろぎ一つせず、 座っていた。が、やがてタキオに促され、ようやく腰を上げた。

 バスから降りた途端、強い風が、頭に被ったスカーフを靡かせる。
 そう、ここは昔から、風だけは良く吹く土地だった。


 スカーフを抑えながら頭を上げると、金色の瞳に、空に負けぬほど青い凧が、映る。

 青ばかりではない。黄色、白、赤、緑……。

 初夏が匂う空に、まるでリボンか蝶々のように、色とりどりの凧が乱舞している。


 空を仰いだまま身動き一つしないロミの横を、同じバスに乗っていた子供が、流行りのキャラクターが画かれた凧を手に、 走り抜けていった。

「お父さん、早く早く!」

「待て待て。風は逃げやしないさ」

「二人とも、転ばないでね」

 父親と、赤ん坊を抱いた母親が、笑いながら後を追う。

 彼らが目指す先には小さな丘があり、大勢の人々が、休日の恰好で、凧上げを楽しんでいた。

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