オリーブの木の下で、イオキが喰っていたのは、自分の指だった。

 細く白い指が、まるで飴か何かのように、いとも容易く砕け、口の中に消えていく。 右手は、すでに全ての指が根本から無くなっているが、左手が貪られる間に、茸のように再生していく。

 声も出せず凍りつくレインの目と、闇夜の中で光るイオキの目が、合った。

 両手と口元を真っ赤にしたまま、イオキは動きを止めた。

 蒼白な表情で、二人は見つめ合った。

「ごめんなさい」

 やがて、イオキが呟いた。

 幽霊のような白い寝間着の裾から伸びた足が縺れ、背中がオリーブの幹にぶつかる。 こちらを見つめたまま、うわ言のように呟く。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 レインは、何も出来なかった。

 ただ、立ち尽くすしかなかった。

 イオキが狂気の表情で呟き続けるのを、その口から血と涎が地面に落ちていくのを、喰われた指が再生していくのを、 ただ見つめることしか、出来なかった。

--------------------------------------------------
[1356]



/ / top
inserted by FC2 system