キリエは一瞬、少女を見たが、すぐに顔を船の方へ戻した。

「あの船……」

 と、少女を気にしながらも、石化の一瞥ですっかり萎縮した様子の護衛が、続ける。

「船舶免許と漁業免許は確認しましたが、どうも妙でした。船員はおよそ漁師らしくないし、何より、 隠すようにしていましたが、テレビ機材のような物が積まれていて……」

 テレビ機材?

 キリエは低い声で吐き捨てた。

「あなたには、領主の護衛をするより、彼の皿に乗るのが、精々お似合いですよ」

 そこへ、少女が走ってくる。

 キリエは素早く立ち回り、少女の前に立ちはだかった。彼女の心情や状況など、興味はない。ただ、彼女が乗ってきた船について、 追及しなければならない。エプロンのポケットから小型の銃を取り出し、少女に向ける。護衛も、急いで右に倣う。

 少女は目を瞠ったが、しかし、走るのを止めなかった。
 こちらを睨みつけたのと同時に、その姿が、消えた。

 赤い髪と金色の足が、豹の如き速さで真横を走り抜けていく、その風圧を、キリエは感じた。 反射的に、銃を持ってない方の腕を伸ばし、見事な動体視力で、彼女の左腕を捉える。しかしそのまま、踏ん張る暇はなかった。 後ろ向きに、砂の上、桟橋へと引きずられかと思うと、次の瞬間、宙を飛んでいた。

 海の上を。キリエに腕を囚われたまま、少女が、桟橋から船へ跳んだのだ。勿論、いくら助走をつけたところで、到底届く距離ではない。
 しかし、この速さなら。

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