何も見ず、何も聞かず、魂だけで、漆黒の闇の中を彷徨い続けたような気がした。

 しかし実際には、オハラ山の、黴臭く、蝙蝠と蜘蛛の巣だらけのトンネルを、 先導する男たちの背中を必死に追いながら進んでいったのだった。
 ようやくトンネルを抜けた時、泥だらけだったこと。日差しが眩しかったこと。 砂漠の国とは打って変わり、今まさに作られたばかりの如く瑞々しい森、その合間を縫う川、咲き誇る野の花。 それらを見下ろし、エイト・フィールドの二人が「ようやくワルハラだ」と呟いたのも、聞こえていた。

 ワルハラに帰ってこれた感慨もまるで無いまま、レインは、用を足す為男たちから離れた。

「ここから更に第二都市まで送るのか。面倒臭いな」

 少し遠い茂みで尿意を解消して戻ってくると、男たちが岩に腰かけ、煙草を燻らせながら話すのが聞こえた。

「大体俺たちは暗殺専門組織『蠍』だぜ? どうして餓鬼の送迎なぞしなけりゃならないんだ」

「最近どうも妙だよな…… オズマ然り、ワトム然り。どの組織も程度の差こそあれ、死に体だって言うのに、 それをまるで無視しているように見える。ボスは、『世界協定』を存続させる気がないのか?」

 二人は煙を吹かし、しばらく沈黙があった。

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