ハンモックから飛び降り、壁に備え付けられた簡易ベッドと寝袋の間を抜け、狭く暗い船室を出る。 船は随分揺れている。転びそうになりながら、錆だらけの急な階段を上り、甲板へ出る。

 空は今も降り出しそうな灰色の雲模様、風は強く、波は荒れていた。空気は生温い。ユニコーン号を思い出す。 人間には到底太刀打ちできない大きな力が、彼女たちを、遠く彼方へ進める。

 船首へ顔を剥けると、タキオはすぐに見つかった。半袖のシャツ一枚で、腕を組み、船首の先を睨んでいた。

 その後ろ姿を見つけた途端、怒りと悲しみばかりだった胸に、弱気と緊張が湧き起こる。 怒りの背を押され、大きく息を吸い、彼に近づく。 正面から顔を合わせる勇気はないので、無言で彼の斜め前まで進み、背を向けて止まった。

「よう」

 と、一拍置き、タキオが言った。

 ロミはすぐに返事をしなかった。反抗の幼稚な表現だが、それ以上に、緊張が、怒りの言葉を遮る。

 固く唇を結び、重く息苦しい潮風に額を押しつけていると、タキオが言った。

「悪かったな」

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