「最初から、私を連れていく気なんか、無かったんだ」

 タキオは黙る。

 その沈黙が、思いもかけず深く、胸に突き刺さる。硬く閉した貝の隙間に、鋭利な刃を刺しこむように。 いくら後悔しても、子供じみた真似を恥じても、一度言ってしまった言葉は、消えない。

「じゃあ何で私をここまで連れてきたの? レインやイオキみたいに、誰かに預けなかったの?  私が一緒に行きたいって言ったから? でも、最後まで連れていく気が無かったなら、最初から置き去りにすれば良かったじゃない!」

 目尻に、涙が滲んでいく。


 あんな、激情に任せ、船を追いかけるべきではなかった。
 思慮分別の仮面が、ここぞとばかり、したり顔で言い聞かす。

 最初から分かっていたのは、むしろ、お前の方だろう、と。


「ロミ。そこまで俺と一緒に来たいか」

 タキオが、静かに言った。

「そんなに、グールに復讐したいか」

 鋼鉄の声が、耳を打つ。内耳を、鼓膜を、その奥の胸を。

「そんな、ほとんど成功する見込みのない復讐に命を燃やすのが、お前の本望か。 心の底には、平和な場所で幸せに生きたいと言う願いが、あるんじゃないか」

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