夢を、見ていた。


 それは、新しい命が一つ、この世に出でた瞬間から始まった。

 これ以上は考えられない程に愛らしい頬、唇、指、そして、あらゆる若芽の輝きを一身に受けたような瞳。 限りなく透明な底に広がる、限りなく深い森。見る者を引きずり込み、迷わせる、美しい瞳。

 その、細い髪の毛一本、小さな爪一枚、無垢な瞬き一つ、何もかもが、この世に二つとない彼の宝となった。

 自ら肉を噛み、柔らかくし、唇に入れてやった。
 泣き始めれば、何時間でも腕の中であやしてやった。
 膝の上に乗せ、本を読んでやった。森を散歩する時は、しっかり手を繋いだ。
 どんな無邪気な問いにも答えた。どんな我儘な要求にも応えた。 宥めすかし、メイドに預け、そのまま別れなければならない時は、内心、胸が張り裂けそうだった。

 成長と共に知識や分別を身に着けさせていく一方で、己に対する絶大な愛情、己に寄せる絶対の信頼が、 少しも損なわれないのを見るのは、どれほど幸せなことだっただろう。


『森の奥には何があるの?』

 陽だまりで微睡む彼に、無邪気な囀りが、問いかける。

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