纏わりつく白いシャツの下で、解き放たれた筋肉や神経が、最初は、戸惑うのを感じる。けれどそれらはすぐに、歓喜の声を上げ始める。 地を駆ける狼より速く、空を飛ぶ鷹より速く。ユーラク第一都市を目指し、まっすぐに進む。

 大きな都市は避けたが、中途にある小さな町や村は、巨人が木々を踏み潰すように、突き進んだ。 水上を走る要領で、屋根から屋根へ飛び移れば、偉大な領主が空を駆けていることに気づく人間は、一人もいなかった。

 そうして進む間に考えるのは、勿論、イオキのことだけだった。

 彼を取り戻したいと、もう一度この腕に抱きたいと、その望みだけが、彼の全てだった。
 その為に国を焼き尽くす必要があるなら、国民全てを皆殺しにする必要があるなら、迷わず実行するだろう。 幾枚か残る衣服など、物ともせず。

 もし、ムジカがイオキに危害を加えていたら、とミトは思った―― それは、必然の想定だった――  それが掠り傷一つであっても、己は、彼を許すことが出来るだろうか? 自国の犯罪人に、恩赦を与えるように。


 答えは、分かり切っている。勿論、否だ。


 もしもあの子が無惨な姿に成り果て、その傍に誰か立っていたら、それが人喰鬼であれ人間であれ、 僕は、相手を殺すだろう。

 炎天下の中を何時間も、一滴の水も飲まず走り続け、第一都市に着く頃には、シャツはボロボロになり、皮膚は砂に切り裂かれ、髪も酷く乱れていた。

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