議事堂を出たミトは、すぐに専用車を出させ、コジマの自宅へ向かった。

 彼女の家は、賑やかな中心部に程近い、古いアパートの三階だった。アパートの窓には、 色とりどりの花を植えた鉢植えに混ざり、青地に白馬の紋章旗が、何枚か垂れ下がっていた。 子供たちがボール遊びをしているアパートの裏路地に車を停めさせると、ミトは、運転手が降りてくるのも待たず、 自ら、埃っぽいアパートの階段を上っていった。

 コジマの部屋は、旗も花もない窓の裏側にあった。
 呼び鈴を押したが、鳴らない。真鍮のドアノブに手をかけると、ペンキの剥げかけた扉は、何の抵抗もなく開く。
 ミトは一瞬、足を止めたが、すぐに扉を押し開き、中へ入った。

 部屋の中は、暗かった。真っ直ぐ奥の窓から、ブラインド越に差し込んでくる光の中で、塵が舞う。 ぼんやりと浮かび上がる家具の形の上に、降っている。コンロとシンクは纏めて廊下の端に追いやられ、 その先に居間兼寝室がたった一部屋という、領主付秘書にしては慎まし過ぎる住居だ。 が、家具は落ち着いた色調で調えられているし、壁には絵なども飾られている。香の香りも微かに染みついている。

 しかしまるで、人の気配がない。

 抜け殻のような部屋に、ミトが立ち尽くしていると、背後で叫び声が上がった。

「まさか…… ミト様?」

 振り向くと、アパートの大家と思しき老婆が、頭に被ったスカーフを引っ張るようにして立っていた。

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