反射的にミトが微笑むと、老婆は叫び声を上げた。

「まあ、信じられない。ああ、何てこと……」

老婆はよろめきながらやってくると、足元にひれ伏し、拝み始めた。

「ミト様。あなたのお陰で、この国は生まれ変わりました。何もかもが良くなりました。 本当に、夢のようです……」

 彼女の声を聞きつけ、周辺の住人も、戸口に顔を出し始めた。誰も彼もが大袈裟に驚き、感激の意を伝えようと、 部屋の中へ入ってこようとする。中には、青い紋章旗を振り回す者もいる。

 彼らをまとめて黙らせたい衝動を、優雅な微笑みでねじ伏せ、ミトは老婆に尋ねた。

「この部屋の住人は何処へ?」

「コジマなら、今朝、この部屋を引き払いましたよ」

 と答えたのは、戸口に押しかけた、筋骨隆々の男だった。

「家具は好きにして良いって言うんで、丁度今、運び出そうとしていたところです」

「そのまま、議事堂へ、最後の御挨拶に伺うと申していました」

 老婆は子犬のような目で、ミトを見上げた。

「領主様、彼女にお会いにならなかったのですか?」

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