そこで彼は、領主の机の前で、葡萄色のスーツを着た女が首を吊っているのを、見た。



 ミトは数秒間、彼女を見つめた。彼女は、背後の大きな窓からたっぷり注ぐ陽光の中で顔を俯せ、表情はよく分からなかった。 スーツの裾から伸びる足は、真っ直ぐ、硬かった。真下に、上等なパンプスが、きちんと揃えて置いてあった。

 ミトは目を逸らすと、まっすぐ、女の方へ近づいた。空気の対流で微かに揺れる彼女の体を避けるようにして机へ手を伸ばし、 そこに置いてあった一通の封筒を取った。

 封も宛名も無いその封筒を開けると、中から簡素な便箋が出てくる。


 ミトは、手紙に目を走らせた。


『私は十七歳の時、地方の寒村から身一つで上京し、親切な方の私塾で読み書きなどを習いました。 優秀だと言うことで目をかけて頂き、その方の伝手で、ユーラク領主の秘書室に就職いたしました』

 と、何の前置きもなく、手紙は始まっていた。

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