『男女問わず国中に失業者が溢れ返り、路上の餓死者も珍しくない時代、 領主付秘書の仕事は、夢のような好待遇でした。給料などは勿論、領主の捕食対象からも外れるのだと――
 この点に関しては、すぐに、甘い考えだったと思い知らされました。ムジカ様は、どんなに有能で忠実な部下でも、 気まぐれに喰われてしまう方でしたから――
 そういう希望もありましたから、迷いなど、ありませんでした。
 けれど勿論そんな下心ばかりでなく、私は、私なりにこの仕事の重要性を理解し、愛し、精一杯努めてきたつもりです。 筆頭秘書に任命されたのは、仕事に対する誠意の報いだったと思いますし、任命された時は大変嬉しかったものです。

 しかし一方で、私は周囲に己の職業を隠し続けてきました。それは、私の恩師の忠告があったからでもありますし、 すぐに私自身が、その必要性を痛感したからです。
 私は最初、政府関係者の宿舎に入っていましたが、まもなくそこが、半グール主義テロリストの放火に遭いました。 そこで上等なマンションに移りましたが、程なく身元がばれました。私が政府関係者であると露見した途端、 それまで親切だった隣人は掌を返したようになり、誹謗中傷の手紙が投げ込まれ、一週間後には強制退居させられました。

 私は、人間を喰らう人喰鬼の追従者。
 ある意味でグール本人よりもなお悪い、人間の裏切者。

 それから、何度同じことを繰り返したでしょう。どれだけ細心の注意を払っていても、いつかは、ばれてしまうのです。
 ムジカ様の領主退任の直前、テロリストが街中に撒いたビラに、ムジカ様と共にいる私の写真がありました。
 直後にムジカ様という後ろ盾を失ったこともあり、私は、近隣住民による私刑を覚悟しました。

 今こうして命があるのは、ミト様、貴方がユーラクにやってきてくださったからです』

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