「おやまあ。第二都市へ行きたいって? あんた、ここから第二都市なんて、列車でも一日がかりだよ」

 と、黒板の字を読んだ女将は言った。レインは怯まず、黒板を持つ手に力を込めた。すると女将は思案し、 成り行きを見守っている客たちの方へ、振り向いた。

「あんた、第二都市の方へ行くんでしょ? 乗せてあげたら?」

「何だって?」

「ついでじゃない。列車の運賃をこの子に貸してやってもいいけどさ、 この年齢の子を一人で行かせるわけにはいかないよ」

「冗談じゃない。第一、こいつの親はどこだ。おい坊主、お前は一体何だって、そんな汚い恰好で、 物も言わず突っ立っているんだ」

「知らないのか。そいつは、『人間農場』の元家畜だよ。去年、ワルハラ日報に写真が載っただろう」

 別の客が口を挟む。女将に指名された、いかにも粗野な様子の男は、無遠慮にレインを見つめると、腕組みし、唸った。

「警察に届けたら、ややこしいことになるよ。いいから、乗せてやりなってば。その飯代はタダにしてあげるからさ」

 女将に止めを射され、ようやく男は丼に残っていた米をかっ込み、立ち上がった。レインは手から力を抜くと、 女将に頭を下げ、男の後を追いかけようとした。すると女将は「ちょっと待って」と厨房に引っこみ、 ラップに包んだ握り飯を手に戻ってきた。

「これ、具が入ってなくて悪いけど、食べな。あんた、今にもぶっ倒れそうな顔してるから」

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