『――貴方は私に、ムジカ様を愛していたのではないか、とお尋ねになりましたね。

 愛していたから、あんな愚行を犯したのではないかと。

 愛していたから、最後まで付き従えたのではなかったのかと。

 あの時も同じようにお答えしましたが、果たして、そんなことが在り得るでしょうか?

 今、こうして手紙を書いている間にも、叫び声が耳にこびりついて、離れません。
 「どうして止めてくれなかったの、どうして何も言わずにいられたの、ただ黙って見ていられたの?」
 と。

 ムジカ様に襲われて壊滅した村の、跡地にいた少女が、私に叫んだ言葉です。

 覚えていらっしゃいますか。貴方がユーラクに来てすぐ、私がご案内した、エイゴン国境沿いの滅びた村、私の故郷を。 彼女はその惨劇の、たった一人の生き残りでした。

 私には、ムジカ様の不興を買うことを覚悟してでも、秘書を辞する道がありました。 ムジカ様に喰い殺されると分かっていても、止めてください、と懇願する道がありました。 なのにその道を選ばなかったのは、命が惜しかったからではありません―― 先にも書きましたが、ムジカ様の側にいても、 命の保証は全くありませんでした――。勿論、愛していたからなど、とんでもない。』

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