ミトは手紙を読み終えると、静かにそれを懐にしまった。

 そしてそのまま踵を返し、部屋を出ていこうとしたが、半ばで、立ち止まった。

 思い直したようにコジマの元へ戻ると、軽く跳躍して、彼女を吊っている布を切り裂いた。 砂袋のように落ちる彼女の体を受け止め、絨毯を敷いた床に横たえる。

 仰向いた彼女の表情は、硬く青褪めていた。眠っているようにも見えたが、だとすれば、 それは冷たい苦悶の眠りだった。

 胸元の乱れを直してやりながら、ミトは気がついた。コジマの首を吊っていた物が、 彼女が常に首に巻いていたクリーム色のスカーフだということに。 相当長く使っていたのか、スーツなどと比べると色も褪せ、おまけにたった今切り裂いてしまったので、 余計にみすぼらしい。
 それでもミトは、赤黒い跡のついたその首にスカーフを巻き直してやろうと思い、何気なく手に取った。

 開くと、スカーフの中央に、小さな模様があった。


 金糸で縫い取られた、太陽。

 白地に黄金の太陽。ムジカの紋章旗。


 ミトはしばらく紋章旗を象ったスカーフを眺めていたが、やがて、彼女の顔に目を移した。 今にも彼女が起きて何か説明するのを待つように、その青い顔をじっと見つめる。 が、無論、彼女の唇はぴくりとも動かない。

 ミトは丁寧にスカーフを彼女の首に巻き直すと、音も無く領主の部屋を出ていった。

 後にはただ、知的な額を不自然に歪め、あんな遺書を書いた人物に呆れているような表情の、 コジマの死体だけが、残った。

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