片手で持てないほど大きな握り飯を二つも受け取ったレインは、最大の感謝を込めて女将に微笑んだ。

 どことなく苦労じみた様子の女将は、その笑顔を見て、意表を突かれた表情になった。が、すぐに顔を和らげ、 汗と土で汚れたレインの肩を、優しく叩いた。

「元気でやるんだよ」

 車の警笛が鳴り、レインは急いで店を出た。先の男が、小さなトラックの運転席から身を乗り出し、 後ろの荷台を指していた。

「こっちは物で一杯だから、お前、荷台に乗れ。荷物に触るんじゃねえぞ」

 レインは荷台に乗ろうとし、躊躇して、足を止めた。

 これでもう大丈夫だ、と思った途端に、自責と後悔が、波のように押し寄せてきたのだ。

 イオキを置いて、自分だけ、ルツの元へ帰って良いのか。明らかに悪意ある者たちに浚われた彼を見捨て、 自分だけ、安全な場所へ逃げ込んで良いのか。

「置いていくぞ!」

 男の酒焼けした怒鳴り声が響き、乗りかけた足の下で、トラックが震える。

 慌てて、レインは荷台に飛び乗った。思い直す暇もなく、トラックが発進する。

 あっという間に小さくなっていく定食屋、オハラ山の長いトンネル、今だ己を探しているであろう黒服たちを、 半ば放心状態で眺めながら、レインはやがて、固い荷台に腰を下ろし、冷たい風の中で体を丸めた。

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