レインの心中とは裏腹に、トラックは、両側に広々とした森を臨みながら、高速道路を軽快に走った。
 所々点在する町に、煉瓦色の屋根やアンテナが優しく光り、杏と桜の樹が、薄紅色に染まっている。 男がラジオに合わせ、大声で歌う。冷たく感じた風も、次第に暖かくなってくる。 すると、腹が減ってくる。

 塩握りは、涙が出るほど美味かった。一つを半分に割って運転席に渡すと、お返しに男は缶コーヒーをくれた。

 満腹して眠り、短い夢を見、トラックが揺れた拍子に目が覚めた。 と、顔を上げざま、道端の標識が目に飛び込んできた。書かれている文字を読むのに数秒かかり、 理解した時にはもう、標識は後方へ去っていた。

 急いでレインは運転席を叩いた。

「どうした、突然。ここで降りるのか? 第二都市まではまだ距離があるぞ」

 そう言いつつ、男は、道端に車を止めた。そして、荷台から降りたレインが頭を下げたのを見ると、 彼を轢かないよう注意しながらハンドルを切った。

 トラックが見えなくなるまで手を振り、レインはリュックを背負い直した。

 大きく息を吸うと、懐かしい臭いがする。決して快い臭いではない、けれど何故か、心安らぐ臭い。 血と粘膜に包まれた生誕の瞬間から――
 『人間農場』で人為的に生産された己が、そういう分娩で産まれたかどうかは、大いに疑問だが――
 今この瞬間まで、二度と純白には戻らない薄皮を、纏い続けてきたように。

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