それは、なかなか難しい問いだ。さしあたり、首を捻ることしか出来ぬ。 レインがその通りにすると、セムはタオルの奥で、溜め息とも唸り声ともつかぬ息を漏らした。

「相変わらずだな、お前」

 そして、一緒に走り寄ってきた、赤毛の犬を見下ろした。 犬は、レインに対して警戒する様子もなく、親しげに尻尾を振っている。レインが頭を撫でると、嬉しそうに機械の手を舐めた。

 しばらく、興奮した犬の息と、羊の声ばかり聞こえた。

「ルツおばさん、死ぬ程お前のこと心配してるぞ」

 レインはセムを見上げた。
 セムは腕組みし、口をへの字にして、こちらを―― 否、こちらと目を合わさぬよう、シロツメクサを見下ろしている。

「家に帰るんだろ」

 レインは頷いた。

 ようやくセムは安心したように、若い農耕馬のような体から、力を抜いた。

「此処からどうやって帰るつもりなんだ。金とか、持ってるのか」

 帰る算段を色々と質問されたが、レインは全て、首を横に振るしかない。それで、こちらの身の上を察したのだろう。 セムは質問するのを止め、考え始めた。そして、結論を出した。

「今日はもう遅いから、お前は此処に泊まっていけ。明日、親父に話して、第二都市まで車で送ってもらおう。 お袋には黙っていた方が良いな。大騒ぎするに決まっているから」

 異存ない、とレインが頷くと、セムはすり切れたジーパンのポケットから手を出し、高く叩いた。 反応して、羊たちが顔を上げ、犬が彼らの周りを走り始める。

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