「先に言っておきますけれど」

 と、深海よりも冷たい声で、赤眼銀髪のメイドが言った。

「私はワルハラ領主ミトの屋敷で働く者です。私を攻撃したらどうなるか、分かっているでしょうね」

 その一言で、彼女の喉を貫こうとした刃は、寸前で止まった。

 六本の腕の一本でサーベルを構えたニィナは、今まさに斬り殺さんとした相手を、憎々し気に睨みつけた。キリエは平然と見返す。 睨みあう美女二人の後ろから、ノノが遠慮がちに声をかけた。

「あの、コン様が…… その人のこと知っているって。殺したら駄目、って……」

「それじゃあ、ノノと一緒に、安全な場所に居てもらいましょうか」

 朗らかにナギが言うなり、頭上から、数本の糸が降りてくる。透明で、精々木綿程の太さしかないが、 鋼鉄の如き強靭さとイソギンチャクの如き柔軟さで、ノノとキリエを絡め取る。あっという間に、二人は宙に吊り上げられ、 天井付近に張り巡らされた蜘蛛の巣の、奥まった場所に落ち着いた。

 謎のガラス状の物質で囲われた深海の空間には、今や、縦横無尽に糸が張り巡らされていた。 ナギの口から吐き出されるその糸の上を、ニィナが、合計八本の手足で以て、まさに巨大な蜘蛛の如く這いずり回る。

「あの赤毛のお嬢さんも、避難させた方が良いかな?」

 ナギがそう言うのと同時に、黄金色の脚が、ニィナの頭に襲いかかった。

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