「大変だね、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」

 受話器の向こうから聞こえてくるアイの声は、いつもと変わらず、溌剌としていた。ニルノはほっと息をつき、部屋のテレビに目をやった。

 編集室に据えられた古いテレビは、朝からずっと、ワルハラ第二都市閉鎖のニュースを伝えている。恐らくワルハラ国民の多くが、今もテレビに注目していることだろう。 しかしこの部屋に限っては、テレビを見ている者は、ニルノ以外にいない。 ワルハラ日報新聞社の人間は、今まさに、件のニュースを本日の夕刊に載せる為、右へ左へ駆けずり回っているからだ。

 仲間たちが急く中、こうしてこっそり恋人と連絡を取っていることがバレれば、非難を浴びること必至である。
 足音荒く部屋に入ってきた編集長に見つからぬよう、机に頭を伏せ、ニルノは声を潜めた。

「俺もそっちに行ければいいんだけど……」

「来たところで、クレーター・ルームの中には入れないわよ。それにあなた、今日これから大事なインタビューがあるんでしょ?」

 彼女の言う通り、ニルノはこれから、ワルハラ日報のテレビ局へ移動し、そこでさる高名な社会学者にインタビューする予定だった。

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