洒落た縁の眼鏡越しに見慣れた風景を眺めていると、いつも、一年程前の出来事を思い出す。 学生時代の友人と、久しぶりに会った日のことを。

 タキオは元気にしているだろうか、とニルノは思った。今どこにいるのだろうか。誰と戦っているのだろうか。 今もまだ、ロミと一緒にいるのだろうか。

 無論、相手の身を案じるのと同時に胸を刺すのは、己が彼との約束を破ったと言う、罪悪感だ。

 本来ならば今頃ニルノは、ワルハラ日報テレビ局をジャックする計画の、最終段階を講じている筈だった。 しかし、躊躇なく進んでいくタキオの姿を見ている内に、気づいてしまった。 計画が進行するにつれ、具象化していく、責任や代償。その責任や代償を負う覚悟が、己にまるで無いことに。
 己の愚かさと脆弱さを恥じながら、ユニコーン号を離れた日のことを、ニルノは決して忘れない。 それを、笑って見送ってくれた、タキオのことも。

 そしてその日から、一日たりとも、タキオのことを考えなかった日はなかった。 どこかで野垂れ死んではいないだろうか。自分が抜けて、計画はどうするつもりなのだろうか。 案じることは多々あれど、しかし、彼が計画を諦めてしまったのではないだろうか、と思ったことだけは、なかった。

 鋼のような灰色の瞳を持つ彼は、決して計画を諦めたりはしないだろう。グールのいない未来に向け、前進し続けるだろう。
 その確信が揺らいだことは、一度もない。そして己も、その信念だけは捨てず、ペンを握ってきた。 叫ぶことしか出来ないそれだけが、己の唯一の武器と信じて。

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