しばらく待つよう言われ、新聞社のそれより数段立派な会議室に、ニルノは残された。会議室には大きなテレビがあった。 何気なくチャンネルを回すと、不意に、恋人が映った。

『元々オーツは、第二都市にドームが造られた際、閉鎖空間に酸素を供給する目的で植樹されています』

 環境局の青いツナギを着た、アイだ。緑と灰色に苔むした山のように大きな樹の前で、無造作に束ねた長い髪が、金色に光っている。

『七本のオーツが作る酸素の一部は、緊急事態に備えて備蓄もされていますので、現在のような完全閉鎖状態が続いても、 五日間は十分に酸素を供給することが出来るんですよ』

 アイはそう言うと、こちらを安心させるように、微笑んだ。

 頑張れ、と思わず声援を送ったとき、部屋に人が入ってきた。慌ててニルノはテレビを切った。

「お待たせしました」

 地味なスーツに鼈甲縁の眼鏡をかけた、初老の男だ。 型通り名刺を交換して挨拶すると、男は、テレビ局に呼び出したことを詫び――  「何せ今までテレビ番組の収録、この後もまた別の番組に出演しなければいけないので」――  慣れた様子で椅子に座った。

 いざ話してみると、男は、テレビなどから受ける印象よりもずっと友好的だった。 彼は終始、穏やかに質問に答えた。時には、彼の主張を疑問視するような問いにも。

--------------------------------------------------
[1497]



/ / top
inserted by FC2 system