思わずニルノは声を上げた。

「別に俺は、グールを殺せと言っているわけじゃない」

 言った瞬間、タキオの姿が頭に浮かんだ。彼と二人で立てた計画のことも。

 男は静かに言った。

「それなら、今以上の形で、彼らと共存する道がありますか?」

 ニルノはそれ以上、何も言えなかった。

 男はしばらく黙っていたが、やがて、よっこらしょと立ち上がった。

「今の発言は、記事にしないで頂きたい。私的な感情で論じていると思われるのは嫌なので……  尤も、どれ程理知的な意見も、発する者の感情抜きには、人の心に響くまい。あなたの記事もそうでしょう。 あなたの最近の持論の発端となった、『人間農場』の家畜として産まれた少年の記事。 私はあれに、彼への深い同情と、彼のような存在を犠牲にして生きる、己自身への怒りを感じました」

 そう言うと、男は一方的にインタビューを切り上げた。具合が良くないから次のテレビ収録まで楽屋で休みたい、と言うのだった。 実際、彼の顔色は良くなかった。ニルノは礼を言い、彼が会議室を出ていくのを見送るしか、なかった。

 広い会議室に残されたニルノは、しばらくの間、椅子から立つ気にもなれなかった。 誰も来ないのをいいことに、書き留めたメモを整理しながら、気持ちが落ち着くのを、待った。

 と、突然、外から大きな声が聞こえた。

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