「……何故、こんなことをするんだ」

 恐怖か怒りか己でも分からぬ、震える声で、ニルノは呟いた。 若者はニルノの視線の先を追い「ああ」と笑った。

「そいつ、知っているぜ。『ワルハラの現状が考え得る最も安定した社会だ』とかぬかしている学者だろ。
こう見えて、俺、結構新聞を読むのが好きでね…… 俺はな、サムサゲ・ニルノ、断然あんたの意見に賛成だ。 人類がグールから自由になろうって時に、邪魔する奴は、目障りだろ?」

 若者の口元で、膨らませた風船ガムが、弾ける。

 震える足で死体の側を通り抜けながら、ニルノは胸の中で、叫んだ。


 何故だ、タキオ。何故こんな連中と、手を組んでしまったんだ。


 エイト・フィールドと言えば、誰もが知る、世界最大最悪の犯罪組織ではないか。 確かに彼らは、各国が厳しい閉鎖状態に置かれているこの世界で、唯一無二のネットワークを持っている。 そのネットワークを利用し、最後の戦いを全世界中に中継すれば、計画は、当初の何十倍もの成果を出すだろう。 一介の新聞記者が時間をかけて自社を説得するより、遥かに大きな成果が。

 ――俺が、その役割を放棄したからだ。だからタキオは、代わりに役割を果たしてくれる者を、見つけなければならなかった。

 よりによって、こんな連中と!

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