周囲は、普段の活気が嘘のように、静まり返っていた。 スタジオの中に、出演者やスタッフが集められ、黒服に銃口を向けられているのが見えた。そこかしこに、血の跡があった。

 ニルノは、上階にあるニュース用のスタジオに連れていかれた。何人もの黒服が、本物のニュース番組さながら、 スタジオを動き回っている。音響、カメラマン、セットの真ん中には司会者のような顔をした者まで……  その誰もが、本職顔負けの動きで、遥か赤道海中から送られてくる生中継を繋いでいる。ニルノが入っていっても、誰も気に留めない。

 若者はニルノを、スタジオの一角にある小部屋に誘導した。小部屋には電話があり、受話器が外されていた。 若者が顎で受話器を指す。ニルノは、震える手で受話器を取った。

「もしもし?」

「……ニルノ?」

 アイの声がした。精一杯平常通りに努めようとしていたが、その声は、これまでニルノが聞いたこともない程不安げだった。

「良かった。あなたが確か、インタビューをテレビ局でするって言ってたから、もしかしてと思って……」

 アイは自分を落ち着かせるように、深呼吸した。

「エイト・フィールドに占拠されているのよね? 怪我してない?」

「俺は大丈夫だよ。そっちこそ……」

 大丈夫なわけがない。アイは、現在ののっぴきならぬ状況を分かっている。それでもなおここへ電話してくると言うことは、余程のことがあったに違いない。

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