タキオのようになれれば、と心の中で、叫ぶ者がいる。彼のように、強く強く、ただひたすらに真っ直ぐ行きたい。 何物にも惑わされぬ鋼鉄の体、冷たい心が羨ましい、と。


 しかし同時に、彼と正反対の選択をすることを、後悔しない己がいる。


 ニルノは叫んだ。

「そんなことより、クレーター・ルームの住人を救う方が先だ!」


 ニルノは若者の銃に掴みかかった。普段の自分からは想像もつかぬ気迫、行動だった。 そのことに驚く、冷静な自分もいなかった。考える力を全て肉体の力に変え、若者から銃をもぎ取った。 終始ガムで緩んでいた若者の口が、ぽかんと開き、初めて焦りの影が過ぎる。その顔に、銃口を向けた。

「クレーター・テレビ局に連絡するんだ! 早く!」

 そう怒鳴るのと同時に、ガラスの割れる音がした。

 ニルノはすっかり忘れていたが、ここはスタジオ内で、黒服の仲間たちが大勢いたのだ。 彼らの何人かは、スタジオの片隅にある小部屋の様子を、ガラス越しにずっと眺めていた。 そしてニルノが若者から銃を奪ったのを見ると、彼に向け、発砲した。

 銃弾は小部屋のガラスを割り、ニルノの頭に向かった。勿論、音を聞き、振り向く暇などなかった。

 洒落た縁の眼鏡が弾け飛び、ニルノは倒れた。

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