それらの様子を目の端に捉えながら、今この言葉を聞いた者が、今この光景を見ている者が、世界に何人いるだろう、
と、タキオは思った。あのカメラの向こうに。この深海の遥か遠くに。 鋼鉄で出来たような胸の内がふと緩み、空虚な隙間が空く。 しかしそんな茫漠とした空間を、いつまでも遊ばせておく余裕は、ない。 二人が作ってくれた隙に乗じ、タキオはそのまま、女王に向かって跳躍した。 女王は腹の子供を抱えたまま、身動きもしない。ただ、化石のような目で、こちらを見ている。 その小さな顔に、容赦なく鉄の拳を振り上げる。 かつてアスナを殺した瞬間が頭を過ぎる。 同時に、糸が巻きついた。腕に、胴に、首に。 「全く恐ろしい人だ」 女王の側に立ったナギが、口から糸を吐きながら、言った。 「エイト・フィールドのパーティで初めて顔を合わせた時から、あなたは理想だけのテロリストとは違う、と思っていた。 理想を現実にする力と、その力を行使する意志を持つ、極めて危険な人物だと。けれど……」 タキオは身を捩り、何とか糸を引き千切る。しかしその間に、タキオと女王の間には、無数の糸が張られてしまっている。 分厚くなっていく帳の向こうから、ナギの声が、聞こえる。 -------------------------------------------------- |