エレベータから降りると、そこから先は、緑の迷宮だ。 樹皮に赤いペンキで幾つもマークがつけられているが、アリオがどの枝を行ったかは分からない。
 トマは周辺を調べ、あるマークの上に、クレーター・テレビ局の文字が入ったペンが落ちているのを発見した。 何故こんなところにこんな物が、と首を捻ったが、すぐに閃く。ヒヨに連絡を入れ、確認を取った。

『縛られた職員その他を発見! 彼らによると、職員の女性一人がアリオに連れていかれたそうだ。え?  そう、さっきテレビに出てた、金髪の女だよ』

 彼女が取材を受けた際、テレビ局の人間からもらったのだろう。そして恐らく、アリオに拉致される途中、意図的に落としたのだ。 トマの脳裏に、住民を落ち着かせようと丁寧に説明する女性職員の、利発そうな顔が浮かぶ。 勿論そんな物は確証にならないが、己の勘を信じるしかない。 トマは、ペンが落ちていたマークが指示する方向へ、登りはじめた。

 こんな、足場も視界も悪い場所を、アリオが登って行ったのだろうか。下手をすれば、墜落死を免れない危険な道を。 毒薬を撒く道具を背負って、あんな不健康そうな体で。彼をそこまでさせるものは、何なのだろうか。

 復讐か。やはり、あの手紙は存在したのか。

 十七年前、己が加担した大量虐殺のことを思い出す。領主直々に命令された、極秘任務のことを。

 アリオが曾祖母の復讐をしたいなら、まさに自分が、最も相応しい相手だろう。

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