遮二無二オーツを登っていくと、果たして、人の揉み合う音、声が聞こえてきた。 トマは葉陰に身を隠し、頭を出した。青いツナギを着た金髪の女と、アリオが――  クリスマスのデパートでトマの前に現れた醜い青年が、取っ組み合っていた。

 二人の向こうに、大型のジュースサーバのような物が、転がっている。毒の噴出装置だろう。 起動しているのか、ここからでは判断出来ない。 先に装置を確保すべきか、アリオを拘束すべきか、トマは迷った。 装置の確保が最優先なのは明らかだが、装置に触れる為には二人の脇を通らなければならない。 それに、足場の悪い場所に転がっている二人は、いつ、どんな拍子で転落するか分からない。

 女は拳をアリオの口に突っ込み、血が流れるほど噛まれながらも、必死に耐えている。 アリオは口に拳を突っ込まれ、獣のように顔を歪ませている。 泣いているようにも、笑っているようにも見える。

 と、アイが長い足で、アリオの腹部を挟むように押さえつけた。相手を何とか取り押さえようと、万力を込める。 アリオが呻きながら身を捩り、彼女の髪を掴む。悲鳴を上げてのけぞる彼女の首を、更に縊る。

「動くな!」

 と、トマは拳銃を構え、立ち上がった。

 二人の動きが止まる。
 アリオの小さな瞳が、こちらを見つめる。

 次の瞬間、緩んだアイの拳を吐き出し、叫んだ。

「来たね、僕を殺しに」

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