トマは淡々と続ける。無感情に、無表情に。

「そして、お前が命懸けで何を叫ぼうとも、俺には無意味だぞ。

 確かに十七年前、俺は施設に火を放った。それは正義の任務ではなかった。しかし俺がやらずとも、他の誰かがやる任務だった。 俺は任務を受け、受けたからには完遂し、完遂したからには後悔しないと決めた。 後悔するくらいならば、あの時、領主の不興を買ってでも、断ればよかっただけのこと。 多くの命を散らした罪を一生背負い、その倍以上の哀しみ、怒り、怨みを産むことは、覚悟の上だった。

 そして今も、その覚悟は続いている。 仮にクレーター・ルームの住民が毒で死んでしまっても、そうならないよう全力を尽くした結果であれば、己を責めても仕方がない。

 だから俺は、お前が何を叫ぼうとも、後悔などしない。一片の悔いもないまま、ただ、この先も行き続けていくだけだ」


 アリオの顔色が変わった。

 白に、紫に、土気色に。

 全身がわななく。アイの首から、手が外れる。おこりのように歯を鳴らしながら、幽霊のような足取りで、こちらに向かってくる。


「何だよ、それ……」

 切れかけた唇がめくれ、黄色い歯が丸見えになる。

--------------------------------------------------
[1526]



/ / top
inserted by FC2 system