「自分が何言ってるのか、分かっているのか? 本当にやってみやがれ! 百遍死刑になったって足りねえぞ!」

 アイと同じ青いツナギを着た、いかにも短気そうな老人だ。 前回、予行演習としてオーツを登ったアリオを発見し、頭に拳骨喰らわせた後、一時間も説教した男である。 アリオの一番嫌いなタイプだ。アリオは反抗的に下唇を突き出した。

「百回も死刑にするなんて、不可能だよ。人間は一度しか死ねないんだから」

「何だと、てめえ……!」

「皆、落ち着いて」

 と、静かな声がした。アイだ。顔色は蒼白だが、他の年上の男たちより、余程しっかりした表情を見せている。 アイは真っ直ぐこちらを見つめ、言った。

「去年のクリスマス前、オーツに登ったのは、この日の為だったのね」

 彼女も前回、アリオを発見した一人だ。

「そうだよ。あの後、侵入者対策を強化しなかったの? ここは、オーツの世話をしたりドームを開閉したりする、 都市のライフライン管理を任されている場所なんだから、テロリスト対策も仕事の一つだよ。怠慢だよね、そっちの」

 アリオの挑発に乗らず、アイは尋ねた。

「何故こんなことをするの? この街の人を全員殺して、多分あなたも無事では済まなくて、それで何が為されるの?」

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