激痛に悶えながら、トマがアリオを見上げた。
 その表情は、先程まで激昂していたとは思えぬ、薄ら緩さだ。

「さっきの、僕を挑発する為の嘘? それとも本音? まあどっちでも良いよ。 両親はじめ僕の周りはそういう奴らばかりだから、慣れているよ、そういう言い草は。 そうやって割り切っていかないと、人生が面倒臭くなっちゃうもんね」

 トマの伸ばした指に気づいたアイが、小瓶と装置を取ろうしたが、遅かった。彼女の指先で、二つは枝から落ち、葉陰の下へ落ちていってしまった。 駆け寄った彼女も、勢い余り、枝から足を滑らせる。青いツナギに包まれた体が、咄嗟に枝を掴み、地上何百メートルで宙吊りになる。

 アリオは全てを嘲笑いながら、吐血したまま動けぬトマの背を、軽く蹴った。

「そう、何でも素直が一番。憎い仇は、殺せばいいんだよ」

 と、トマの懐で、無線機が鳴り響いた。

『グレオ! 撃て!』

 毒を吸わぬようハンカチでも当てたのだろう、くぐもっていても切羽詰まっていると分かる、ヒヨの声だ。

『あたしは今登ってるけど、間に合わない! もう標的は補足出来ているんだろ? 撃て!』

 しかしグレオからの応答は、ない。

『聞いてんのか、グレゴリ男!』

 やや躊躇うような沈黙の後、応答があった。

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