次の瞬間、ヒヨの絶叫が、無線機を震わせた。

『トマが死んだって聞かされる方が、百倍も悲しむに決まってるだろう!』

 アリオが、トマを蹴り飛ばした。トマは為す術もなく、オーツの上を転がった。アイのすぐ手前で、辛うじて止まる。 容赦なくアリオは、笑いながら、更に蹴りを加える。憎い仇を、オーツから落とそうと。

 アリオの履き古したスニーカーの先が、トマの腹に触れる寸前、甲高い笛のような音が響き渡った。


 ライフルの発射音だった。

 トマの眼鏡に、鮮血が降り注いだ。

 グレオが通りの向こうから発射した弾は、過たず、アリオの足を貫通した。


 喚きながら、アリオが、その場でのたうち回る。拍子に、トマの体は押され、枝から転げ落ちる。アイが悲鳴を上げる。
 同時に、絞り切られた雑巾のような体から、血のように力が迸った。痙攣していたトマの手が、枝を掴んだ。

「ボス!」

 と、ようやく登り着いたヒヨが駆け寄ってくる。

 先にアイを、と、トマは目線で知らせた。ヒヨは了解し、すぐさまアイを引き上げにかかった。

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