家にいれば良かった、とルツは後悔した。朝からクレーター・ルームが完全に閉鎖された。 そんな騒ぎでざわつく街に、何もわざわざ出ることはなかったのだ。ぐずるマリサを宥める為とは言え。

「全くろくでもない日になったわね」

 そう呟きながら、ルツの頭には、先に店頭のテレビで見た映像が離れなかった。 離れるわけがない。あんな衝撃的な映像が。

「ねえ。さっきテレビに映っていたの、タキオだったよね?」

 マリサがそう言いながら、テレビの方へ戻ろうとする。その腕を強引に掴み、何処へともなく、ルツは足早に歩いた。 何処か、この嫌な喧騒から逃れられる場所へ。

「ねえってば!」

「気のせいよ」

「気のせいじゃないよ! もう一回テレビ見ようよ! そうしたら分かるから」

「嫌よ」

「何で? みんな見てるのに」

 皆が見ている。タキオが人喰鬼に戦いを挑むところを。彼女の造った特製の使鎧と、鋼よりも硬い意志だけを武器に、恐ろしい敵に立ち向かっていくところを。

 けれど一体子供に、何て物を見せるのよ、とルツは胸の中でタキオを罵った。あなたの血が流れたら、マリサがどれ程ショックを受けることか。 それに、彼女自身も。使鎧が破壊された瞬間、今すぐ駆けつけ、その場で修理してやりたい衝動を、堪えられるだろうか。

 それに何より、重い問いが、己を苛むことだろう。
 五千万と引き換えに、彼に使鎧を造ったのは、正しいことだったのか? と。

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