アリオは簡潔に答えた。

「復讐」

 沈黙が、降りた。

 サスペンスドラマに溢れかえる陳腐な理由に呆れたのか、そのあまりに乾いた口調に説得の余地無しと感じたのか。
 老人だけが、月並みな説教を止めない。「そんなことをしたって死人は生き返らない」だの「復讐なんて虚しい」だの「家族のことを考えろ」だの。

 アリオが全て無視していると、老人は激昂した。

「この分からず屋! 復讐だと? 誰の復讐か知らないが、そんな理由で、何万人という人間を殺していいと思ってるのか!」

 思わずアリオは、呟いた。

「全くその通り」

 老人の口が、止まる。

「戦争。正義。別の命を救う為。だから仕方なかった。そんなこと言われたって、意味ないんだよ。 どんな大義名分をかざされたって、優しい言葉で慰められたって、そんな物で、人の死が受け入れられるわけがない」

 自分でも驚くほど低く、ひび割れた声だった。

 その声を聞いた途端、アリオの胸の中に、どっと疲労感と虚無感が広がった。ここまで荒事を進めてきたのに、 思いもよらぬ形で台無しにされた、疲労感。もうどうでもいいや、と言う虚無感。 茶色に変色し今にもバラバラになりそうだった花弁を、自ら握り潰したような、鈍い痛み。

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