だるい体を椅子から引っ張り上げ、アリオはアイに命じた。

「一緒に来い」

 男たちがざわめく。「代わりに俺をつれてけ!」と叫ぶ老人を制し、アイはゆっくり立ち上がった。 油断なくこちらを見つめる目つきは、隙あらば相手の動きを封じようとする目だ。彼女には、実際それをやるだけの度胸があるだろう。

 だが、問題ない。
 アリオは足元に置いていた登山用リュックを背負い、彼女に言った。

「大人しくしててね。僕の奥歯に仕込んだスイッチ一つで、このリュックに入っている装置は毒を噴出するから」

 アイを先に歩かせ、二人は部屋を出た。

 環境局事務室を出て廊下を歩き、突き当りの扉から屋外へ出ると、オーツの根本に出る。 クレーター・ルームに七本植わっているオーツの殆どは、その周囲が公園なりとなっているが、 このオーツだけは環境局の施設の敷地内にあり、一般人は立ち入れない。 ツナギを着ない職員が二人、近くをうろついているが、燦々と緑が降り注ぐ風景は異様に静かだ。

 オーツには、幹に沿うようにして、作業用エレベータが設置されている。 職員に案内される出入りの業者を装い、アリオはエレベータに乗り込んだ。

 狭い空間の中で、緊迫した時間が続く。
 が、しかし、とうとうアリオは、アイに隙を与えなかった。

 エレベータの最上階で、二人は降りた。

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