最上階と言っても、オーツの天辺には程遠い。根本は小学校の校庭程も太さがあるオーツの幹が、ようやく枝分かれを始める高さだ。 ここから先は枝を選び、己の手足で登っていかねばならない。その為の赤い印が、幾つも幹につけてある。

 アリオが予め決めておいた枝を、二人は黙々と登っていった。 最初こそは、びっしりと茂る葉で視界が覆われていることもあり、本物の山肌でも登っているような感覚だが、 何度も枝の分かれ目を通過していく内に、木に登っているのだ、とはっきり実感出来る足場の悪さになっていく。 慣れた足取りで軽々進んでいくアイに比べ、アリオは早くもよろめき、息が上がってくる。 先行するアイの挙動を警戒しつつ、毒の噴出装置も背負っているのだから、なおさらだ。

 それでもアリオは、登りきった。今までの人生で出し惜しみしてきた体力と精神力、その全てを振り絞り、やり遂げた。
 目的の場所で座り込み、肩で息をしていると、少し離れた場所に立っているアイが、話しかけてきた。

「……誰の復讐なの?」

 アリオはリュックを下ろすと、中から水の入ったペットボトルを取り出した。

「ひい婆ちゃん」

 と、アリオは答えた。

「ワルハラ領主に、殺されたんだ。十七年前、五百人という人間と共に、入居していた施設ごと焼き殺された」

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