アリオは振り向き、アイの目を見てはっきりと言った。

「焼き殺されるその日、ひい婆ちゃんが、僕に宛てて書いた手紙がある。 敷地内の森を散歩中に、見知らぬ奴らが会話しているのを立ち聞きした、その内容だ。 奴らは、施設全体に催眠ガスを流し放火する算段を、話し合っていた。 己の運命を悟ったひい婆ちゃんは、僕に手紙を書いて投函し、その日の夜、死んだ……  その手紙は、僕の秘密の銀行口座に預けてある」

警察もおいそれと手を出せないその銀行の名前、口座の暗証番号を、早口に唱える。

「このクレーター・ルームで、君は唯一、生き残るんだ。手紙を公表し、僕の犯行動機、隠蔽されたミトの悪行を暴く為に」

 そう言うとアリオは、呆気に取られているアイの隙をつき、リュックから装置を取り出した。 一見タンク型サーバーか何かのようなそれを、しっかり木肌に固定すると、アイが息を呑み、体を動かしかける。 それを鋭く制した。

「動かないで。僕に飛びかかって、一緒にここから転げ落ちたくないだろう?」

 だがしかし、アイは止まらなかった。

 アイの細い腕が、アリオの腕を掴んだ。噴出装置のボタンに触れかけていたアリオの手が、捻り上げられる。 その痛みと気迫に驚いたアリオは、奥歯に仕込んだスイッチのことも忘れ、喚いた。

「邪魔するな! これしか方法がないんだよ!」

「お婆様の恨みを晴らしたいのなら、手紙を公表するだけで、十分でしょう!」

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