「それじゃあ、僕のこの気持ちは、誰にも分からないんだ!」

 アリオは絶叫した。遥か下界の人々に、頭上に被さるドームの外の世界に。

 叫ぶのと同時に、思い出が、旋風のように胸を切り刻んだ。

 どんな人間も嫌い、どんな人間からも嫌われていた曾祖母。にも関わらず、その財産故に、始終偽の笑顔に囲まれていた。 そのことにうんざりしていた。そんな人生がさっさと終わることを、望んでいた。

 そんな曾祖母の死。あまりにも多くの人間が犠牲になった災害の中に埋もれた、一つの死。 「事故ならば仕方なかった」と言われた死。「十分長生きしたのだから」と言われた死。「悪金持ちに相応しい」と囁かれた死。 誰も泣かなかった死。


 誰も――? 否、僕は泣いた。


 曾孫にすらほとんど笑顔を見せなかった曾祖母だが、何故か彼女が好きだった。 多分、同じ鼻つまみ者、疎まれ者同士だと言う一体感が、あったから。 それは決して、幼児の一方的な感覚ではなかった。曾祖母にも、確かにあった。彼女がたまに見せる笑顔に、それが確かに感じられた。


 仮に本当に事故だったのだとしても、どんな悪金持ちでも、十分長生きしても、本人が死を望んでいたのだとしても――



 だからと言って、たった一つの命がもう二度と生き返らない、この絶望と虚無感が、幾許かでも軽くなると思うのか?

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